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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

保証人がいらないと云うのが何よりの仕合せだ。

浅草の古本屋で、文章倶楽部の古いのをみつけて買う。黄いろい色頁の広告に、十九歳の天才、島田清次郎著「地上」と云う広告が眼につく。十九歳と云う年頃は天才と云うにはふさわしい年頃かもしれない。――私だって天才位はいつも夢にみているのだけれども、この天才はひもじいと云う事にばかり気をとられて凡才に終りそうだ。

いったい、どこに行ったら平和に飯が食えるのだ。飢えていては何を愛する気にもなれない。第一、こう寒くては何もかもちぢかんでしまう。単衣の重ね着で、どろどろに汚れているメリンスの羽織と云うていたらくでは、尋常な勤め口もありよう筈がない。

浅草へ行く。公園のなかで、うどんを一杯ずつ食べて、ついでに腹の上で冷くなった、たいやきも出して食べる。うどん屋の天幕の裾から、小雪まじりの冷い風が吹きぬけて来る。二ツの七輪から火の粉がさかんに弾ぜている。熾んな火勢だ。熱い茶を何杯も貰う。おぶいばんてんをほどいて、お芳さんは子供に乳をふくませ、おしめをあてかえてやっているけれど、ずっくりと濡れたおしめの匂いが何となく不快で仕方がなかった。