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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
変化が出ようともかまわぬ。鏡花もどきに池の鯉がさかんにはねている。味噌湯をすする私の頭には、さだめし大きな耳でも生えていよう……。狂人になりそうだ。どうにもならぬと思いながら、夜更けの道を、あのひとがあんぱんをいっぱいかかえてかえりそうな気がして来る。かすかにあしおとがするので、私ははだしで外へ出て見る。雪かと思うほど、四囲は月の光りで明るい。関節が痛いほど寒い。ぱったりと戸口で二人が逢えばどんなに嬉しかろう……。
遠いあしおとは何処かで消えてしまった。硝子戸を閉ざして、また七輪のそばに坐る。坐ってみたところで、寒いのだけれども、横になる気もしない。何か書いてみようと、机にむいてみるのだけれども膝小僧が破れるように寒くてどうにもならない。少し書きかけてやめる。かんぴょうでもいいから食べたい。
(十二月×日)
朝。思いがけなく母がまっかな顔をしてたずねて来る。探し探しして来たのだと云って小さい風呂敷包みをふりわけにかついで、硝子戸のそとに立っていた。私はわっと声をあげた。ああ、何と云うことでございましょう。浜松で買ったと云う汽車のべんとうの食い残しの折りが一ツ。