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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

誰も何とも思わない。こうした行列を怪しむものは一人もないのだ。

今日はレースのかざりのあるエプロンを買う。女給さんのマークだ。金八十銭也。

東京の哀愁を歌うにふさわしい寒々とした日。足が冷いので風呂をやめて、椅子に坐って読書。全く寒い。新しいエプロンののりの匂いが厭になる。

夜。

四五人の職人風の男が私の番になる。

カツレツ、カキフライ、焼飯、それに十何本かの酒。げろを吐いて泣くのもおれば、怒ってからむのもいる。じいっと見ていると仲々面白い。一時間ほどして女郎屋へ出征との事だ。

ああ世の中は広いものだと思う。どんな女がこの男達のあいてになるのかと気の毒になって来る。玉の井に行かなくてよかったと思う。在所から売られて来た娘の、今日の行列のさまざまが思い出されて来る。

勝美さんはもう、相当酔っぱらって歌をうたい始めた。客は二人。二人ともインバネスを着た相当ないでたち。お信さんは時々レコードをかけながらするめをしゃぶっている。今夜は商売繁昌なので、やっと奥から火鉢が出る。

勝美さんの客は、私にも酒を差してくれた。美味しくも何ともない。五六杯あける。少しも酔わない。