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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

鏡に色目をつかったって、鏡が惚れてくれるばかり。こんなに綺麗に髪が結えた日には、何処かへ行きたいと思う。汽車に乗って遠くへ遠くへ行ってみたいと思う。

隣の本屋で銀貨を一円札に替えてもらって田舎へ出す手紙の中に入れておいた。喜ぶだろうと思う。手紙の中からお札が出て来る事は私でも嬉しいもの。

ドラ焼を買って皆と食べた。

今日はひどい嵐なり。雨がとてもよく降っている。こんな日は淋しい。足が石のように固く冷える。

(十月×日)

静かな晩だ。

「お前どこだね国は?」

金庫の前に寝ている年取った主人が、この間来た俊ちゃんに話しかけていた。寝ながら他人の話を聞くのも面白いものだ。

「私でしか……樺太です。豊原って御存知でしか?」

「へえ、樺太から? お前一人で来たのかね?」

「ええ……」

「あれまあ、お前はきつい女だねえ。」

「長い事、函館の青柳町にもいた事があります。」

「いい所に居たんだね、俺も北海道だよ。」

「そうでしょうと思いました。言葉にあちらの訛がありますもの。」

啄木の歌を思い出して私は俊ちゃんが好きになった。

函館の青柳町こそ悲しけれ

友の恋歌

矢車の花。

いい歌だと思う。