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めいじびじんでん
新編 近代美人伝 (上)
長谷川 時雨
長谷川時雨『新編 近代美人伝 (上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:明治美人伝、明治大正美人追憶、樋口一葉、一世お鯉、大橋須磨子、竹本綾之助、豊竹呂昇、平塚明子(らいてう)、松井須磨子、芳川鎌子。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,076 字 · 256 页
席亭に出ても鉢巻のようなものをして自慢の髪を――ある折はばらりと肩ぐらいで切っている事もあった。彼女が米八の昔は、時の人からたった二人の俊髦として許された男――末松謙澄と光明寺三郎――いずれをとろうと思い迷ったほど、思上った気位で、引手あまたであった。とうとうその一人の光明寺三郎夫人となったが、天は、その能ある才人に寿をかさず、企図は総て空しいものとされてしまった。彼女はその後、浮世を真っすぐに送る気をなくしてしまって、斗酒をあおって席亭で小唄をうたいながら、いつまでも鏡を見てくらす生涯を送るようになった。しかし伝法な、負けずぎらいな彼女も寄る年波には争われない。ある夜、外堀線の電車へのった時に、美女ではあるが、何処やら年齢のつろくせぬ不思議な女が乗合わせた、と顔を見合わした時に、彼女はそれと察してかクルリと後をむいて、かなり長い間を立ったままであった。席はむしろすきすぎていたのであったが、彼女は正体を見あらわされるのを厭ったに違いなかった。艶やかに房やかな黒髪は、巧妙にしつらわれた鬘なのは、額でしれた。そして悲しいことに、釣り革をにぎる手の甲に、年数はかくすことが出来ないでいた。