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めいじびじんでん

新編 近代美人伝 (上)

長谷川 時雨

長谷川時雨『新編 近代美人伝 (上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:明治美人伝、明治大正美人追憶、樋口一葉、一世お鯉、大橋須磨子、竹本綾之助、豊竹呂昇、平塚明子(らいてう)、松井須磨子、芳川鎌子。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,076 字 · 256 页

青空文庫

三

さてそこで、家出当時の鎌子の服装が思いがけぬ疑惑を他人に与えている。緋ぢりめんの長じゅばん、お召のコートというところから、伯爵家の若夫人の外出の服装ではないといい、わざとああした目立たぬ扮装をしたのであろうとも言い、取りいそいで着のみ着のまま出たのであろうとも言われた。そしてそれならば、最初家出の時には死ぬつもりではなかったろうといい、死をきわめていたからこそそのままで飛出したのだといい、死ぬのならば千葉までゆかずともの事であり、翌日を待たずともだとも難じられた。けれどその時間の長短は、その人たちには実に余儀ない推移で、思いきりや諦めでは到底満足されない生死の葛藤が無論あったはずだ。決断がにぶいといったものもあるが、彼れらは決して拈華微笑、死を悦びはしなかったのだ。出来ることならば生のよろこびを祈ったのだ。充分に生の享楽を思う魂が二個結びついて、それをこの世に保存する肉体を捨てようとする愛着切離の葛藤。女が腹痛といって打伏していたのも、その姿をまとも見ているに忍ばれなくなって、男の頭が狂暴になり芸者にでも騒がせて、悲苦をごまかそうとしたに無理はすこしもなかった。