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まさことまき

方子と末起

小栗 虫太郎

「週刊朝日読物号」朝日新聞社、1938(昭和13)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,517 字 · 24 页

青空文庫

しかしそれが、悦びか、悲しみか、慾求の表示でもあるのか――末起にもそこまでは分らなかった。ただ、お祖母さまの身体中でたった一つの、うごく筋肉である眼筋をとおして行われる……。見えざる口、聴えざる言語であろうか。

(ひょっとしたら……)

これで、もしや何事か分るのではないか――末起も胸を躍らせ、しげしげと注意するようになった。お祖母さまに、ながい闇が裂かれ、光があらわれた……。と思ったのも数度のあとは糠喜びにおわるのだった。

祖母が、涙をため瞬くまいとする、痛ましさは分っても単一なために、なにを訴え、なにを報らせようとするのかそれが分らない。しまいには、末起もがっかりしてしまい、それからは、思いついた以外には、格別見るようなこともなかった。

と、ある日――。はじめてお祖母さんのそれが、具象的なものに打衝かった。

それは、母が生前見ていた婦人雑誌を、末起がなに気なくひろげたときだった。口絵には、数頁にわたって髷型の写真があり、なかに、いちばん母にうつった毛巻の丸髷があった。不祝儀のとき、華奢で、すらりとした痩形の母は、かえって初々してそれは浄らかに黒ずくめのなかで、霊体のように見えるのだ。