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たびのたびのたび

旅の旅の旅

正岡 子規

「日本」1892(明治25)年10月31日から四回

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,120 字 · 10 页

青空文庫

末枯や覚束なくも女郎花

熱海に着きたる頃はいたく疲れて飢に逼りけれども層楼高閣の俗境はわが腹を肥やすべきの処にあらざればここをも走り過ぎて江の浦へと志し行く。道皆海に沿うたる断崖の上にありて眺望いわん方なし。

浪ぎはへ蔦はひ下りる十余丈

根府川近辺は蜜柑の名所なり。

皮剥けば青けむり立つ蜜柑かな

石橋山の麓を過ぐ頼朝の隠れし処もかなたの山にありと人のいえど日已に傾むきかかれば得行かず。ただ

木のうろに隠れうせけりけらつゝき

など戯る。小田原を過ぐればこの頃の天気の癖とて雨はらはらと降りいでたり。笠は奉納せり。車は禁物なり。いかがはせんと並松の下に立ちよれども頼む木蔭も雨の漏りけり。ままよと濡れながら行けばさきへ行く一人の大男身にぼろを纏い肩にはケットの捲き円めたるを担ぎしが手拭もて顔をつつみたり。うれしやかかる雨具もあるものをとわれも見まねに頬冠りをなんしける。秋雨蕭々として虫の音草の底に聞こえ両側の並松一つに暮れて破駅既に近し。羇旅佳興に入るの時汽車人を載せて大磯に帰る。