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たびやくしゃのつまより

旅役者の妻より

矢田 津世子

「文学界」1934(昭和9)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,566 字 · 14 页

青空文庫

また、あれの書きました習字でもありますなら(どんな書きくずしでもよろしく)これも一枚おねがいいたします。

いつもいつも嬉しいたよりはきこえあげず、さぞかしおうるさい事でありましょうが、父からはかえりみられず、岡村のあに様や戸部の伯父とてあの様なもの堅さではとりつく島もなく、ただただ頼りになるのはあね様のみ、嬉しいにつけ悲しいにつけ、つい、お耳にいれておすがり申したきこの心情、何卒御推察下さいますよう。

つきましては、加様に不甲斐なきわたくしの躯故、またもまたもと良人に薬買う金もせがまれず、さりとて、このままにては何時果てるやもしれず、あね様ひとりを頼りと思い、たってのねがいおきき届け下さいますよう、金十円程を御融通下さる訳にはまいりませんでしょうか。出来なければ九円でも八円でもよろしく、これはひと興行終りますれば良人の手にも幾ばくかの金が入ります故、是非にでもおかえし申しますれば、御安気下され度。この久留米にはあと半月も居りましょうから、まだまだおたよりはさしあげますなれど、お躯くれぐれもお大切にあそばすよう、伏してねがいあげます。