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りょかんについて
旅館について
山本 周五郎
「朝日新聞 PR版」1965(昭和40)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,912 字 · 16 页
団体旅行というのもしたことがないし、将来もしないであろうことは確実と云ってよい。にもかかわらず、このように非難めいた拙文を綴るのは、去年の夏、二度にわたってからきめにあったからだ。S社のS誌で拙作のグラビアを載せることになり、担当の若い記者、カメラの人、それに案内役の若い友人という四人づれで、北国街道の今庄から、山中、粟津と写真を撮ってまわった。
山中温泉にはずっと若いころいったまま、三十年以上もたった、いまから数年まえ、二度めに取材のためおとずれ、去年が三度めの訪問であった。旅館は数年まえに泊ったのと同じ吉野屋であり、たいそう気にいったのでまた泊ったわけである。建物が大きく立派であるのに、サービス・スタッフも熟練していてこころよかった。私たちは夕食をたべ、菊五郎というお姐さんの山中節を聞きながら、かなり更けるまで飲んで寝た。寝るときは酔っていたのでわからなかったが、眼がさめてみると私は一人で寝ているのに気がついた。
「ははあ」と私は呟いたものだ、「おれだけおいてきぼりをくわせたな」
枕許にはウィスキーとビールと、水、グラスなどが揃っている。私はビールを一杯呷り、次にウィスキーの水割りを作った。