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ひはかがやけり

日は輝けり

宮本 百合子

「中央公論」1917(大正6)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,445 字 · 152 页

青空文庫

筆が思うように動かないで、やや画の不明な幾行もの字の終りに、「浩」というのばかり丁寧に念を入れて書かれたように見えていた。

秋もだんだん末になって来た。肌寒い或る晩、机に向っている浩の目には、ちょうど窓前の空地にたった一本ある桜の若木が眺められた。青く動かない空の前に、黒く浮いている葉が、折々風の渡る毎に、微かな音をカサカサと立て、今散ろうとする小さい朽葉が、名残を惜しむように、クルクル、クルクルと細い葉柄一本に支えた体中で、舞っているのなどが見えた。

鉛筆を握ったまま、ぼんやりと葉の運動を見ていた浩は、そのときフト、頭の傍の電燈の方から、何か小さいものが、ちょうど塵のように落ちて来たのを見つけた。古手帳のやや黄ばんだ紙の上に、音でないほどかすかな音――何か落ちるということの素早い連想ばかりで感じられるような――を立てて来たのは、一匹の小さな小さな虫であった。

体全体の長さが、鯨尺の一分にも足りない、針の元ぐらいの頭に、ようようこれが眼かしらんと思われるものが二つついている。見れば見るほど、小さいながら、調った、美しいというに近いほどの体形をしている。