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ひはかがやけり
日は輝けり
宮本 百合子
「中央公論」1917(大正6)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,445 字 · 152 页
暫く静かにしていた虫は、また急に痙攣的に体中を震わすと、少し位置をかえて鎮まる。見れば薄茶色の、ペン先で作った点ほどの卵が、そこに遺っている。今にも捨てられてしまうかもしれない一片の古紙の上に、小虫は全精力をそそぎ尽してしまうほどの努力をもって、大切な子孫を遺そうとしているのである。すぐ捨てられるかもしれない紙の上に……。浩は「大自然の意志」が、あまり歴然と今自分の、この目前に示されているようで正視するに堪えない心持になった。悲壮な、また恐ろしい有様である。
小虫も、もうじき死ぬのだろう。卵もすぐ紙ぐるみ、何のこともなく捨てられないとは、決していえない。けれども、今こうして小虫は、それらの一つも考えず、自然の命ずるがままに、勇ましい従順さで任務を果そうとしている。
言葉にまとまらない雑多の感情が、あとからあとからと彼の心に迫って来た。浩は何だか、この一匹の小虫の前に――或る時は彼等の存在することにさえ頓着なく過してしまい勝なこの小虫の前に――自ずと頭の下る心持がしたのである。
各自の子孫に対して持つ精神過程は、すべての生物が全く同一なのだ――たとい自意識のあるないの差はあっても――と思うと、浩はあらゆるそのときの親というものがいとおしいように感ぜられた。