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ひはかがやけり
日は輝けり
宮本 百合子
「中央公論」1917(大正6)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,445 字 · 152 页
そのときはもう、見えないどころではなく、株でも譲られたらしい一人の老人が、
「ア夕刊、ア夕刊!」
と小さく叫びながら、淋しげに動きもせず鈴を鳴らしていた。
失望しながら浩はその爺に訊いてみたが、解らない。
「お前さん、今時の若い者が……クフン、クフン、いつまで夕刊売りをしていますかい。大方どこぞの職人にでもなったでしょうよ」
喘息だと見えて、喉をゼイゼイ云わせながら、気のなさそうに答えると、爺さんはまた不機嫌らしく、
「ア夕刊、ア夕刊!」
と力なく叫びながら鈴を鳴らし始めた。賑やかな街の真中に、寒さに震えながら立ち竦んだようにしている爺さんは、まるで、瀕死の鷺が、目を瞑り汚れた羽毛をけば立てて、一本脚で立っているように見えた。
浩は手持不沙汰にその様子をながめながら、考えた。
「職工になることはあり得べきことである。それもいい。けれども、自分に無断で姿を隠す必要がどこにあるだろう?」
何か嬉しくない事件でも起ったのだろうということが、推察された。がどうしても仕方がない。爺さんに礼を云って歩きながらも、浩は気が気でないような心持がした。若し誰も知らないところで病って、そのまま死んででもしまったらと思うと、自ずと涙ぐまれた。