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ひはかがやけり

日は輝けり

宮本 百合子

「中央公論」1917(大正6)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,445 字 · 152 页

青空文庫

床を離れて、二三日してから孝之進は足試しに、電車に乗らずに行ける高瀬まで出かけてみた。足の方は何でもなかったが、妙な一つの現象を発見した。それは彼が高瀬の主婦に乞われるままに、お咲の所番地を書こうとしたときである。「――区――町――」孝之進は、すかすような容子で、几帳面な字を書き出した。このとき、フト彼は浩のことを思い出した。彼の目が三白なことが頭に浮んだ。三白の子は昔なら、生かして置けないといったものだと思うと、不意に手頸の力がぬけて書いていた字の下に、細く太い汚点をつけた。考える方に妙に体中の力が吸い取られて、手の方がだるいようになると一緒に、ガクンと骨が脱れたように、感じたのである。孝之進は、思わずハッとした。が別にどうしようもない。何も思わないようにして、書きあげてはしまったものの底の底まで気が滅入った。彼はそこいら中、ガタガタになって、死んで行く自分の姿をまのあたり見せつけられたようで、非常に厭な気持がした。

一二度外出をしてから、孝之進は早速帰国の仕度をした。そしてようよう汽車賃ほか遺らない中から、薬代を払おうとして、きっと浩が済ませたに違いない受取りを出されたとき、彼は思わずも溜息を吐いた。