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ひめくり

日めくり

壺井 栄

「群像」1963(昭和38)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,884 字 · 34 页

青空文庫

私、もう入院なんてしないわ」

「そうはいっても発作が起きりゃ、ほっとけないよ」

「発作、おこさないことにするわ。とにかくこうなっちゃあ、われわれがしゃんとしていないと、総くずれよ」

「大げさにいうね」

「そう。私このごろ、少々迷信やになったのよ。二度あることは三度なんて」

「なにが」

「姉さんと、弟のことがあるでしょう。気になる」

ここ一年とちょっとの中に、元子は二人ものきょうだいを、失っていた。姉の方はながい患いののち、そして弟はあっというまの脳溢血だった。二人とも元子の入院中だったので、葬式にもいけず、ひとり病室の中で思い出にふけった。たがいに畑ちがいの仕事であったためについ疎遠にすぎ、きょうだいながら打ちとけあうこともなく過ぎた年月が多かった。それに比べると、娘婿という近しさを別にしても、文学書の出版社につとめている山形とは心を許しあえるものがあって、むしろ姉たちよりも肉親的な感情がもてた。たよりにもしていた。それが今、生命の灯に嵐が吹きよせているのだ。不幸はとかくつれを呼ぶといわれる。いつ吹き消されるかもしれぬ命の灯を、守る手だてはもうなさそうに思える。