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ひめくり

日めくり

壺井 栄

「群像」1963(昭和38)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,884 字 · 34 页

青空文庫

「でも、あのぽんぽんはいいわよ。本職の附添さんには云えないもの。ひろみをつけて、よかったと思う。どっちにとっても」

「うん」

「なんとか、ふたりだけの時を、少しでもながくしてやりたいわね」

「だがね、今日、社長がきてくれたことは、ほんとにうれしかったらしいよ。それで彼、少し希望が持ててきたんじゃないかな」

「そうお」

「君は詩が好きなんだから、詩の全集の企画でも考えて、それを提出しろだの、その仕事にはだれとか君が適任だから、それと組むといいとかな、いろいろ云ってくれたんだそうだ。そいつがひどくうれしかったらしい」

山形常夫はその勤め先の出版社で詩書の企画を立て詩集の出版を手がけてきた。彼の今日までの仕事の最後は、犀星たち高名な詩人の豪華な全詩集本であった。そして、はじめの入院の時には病室までその大きな、重たい詩集を持ちこんで、時々ひろげてみたり、赤ん坊の頭にでもさわるように、感慨ぶかい表情でさすっていたりした。

「その中、おじいちゃんの詩集も、出しますからね」

そんなことも云ったりしたこともあったが、それから僅か半年の今ではもう詩集どころでなくなっている。日々の新聞さえ手にしないのだ。