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ひめくり

日めくり

壺井 栄

「群像」1963(昭和38)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,884 字 · 34 页

青空文庫

「…………」

「ぼくはねおじいちゃん、自分では詩は一行も書きませんがね、とっても詩がすきなんです。ぼくに詩のことを教えたのは松山の高等学校の、一つ上のクラスの奴でしてね、お前、伊東静雄って知ってるかねって。伊東静雄はぼくの中学の先生だったんですよ。でも詩人であることを、ぼくは知らなかった。そのうち、学内運動で松山高校を追われましてね、上京したんですよ。伊東静雄の詩集をさがしましたね。その中、朔太郎との関係がわかってくる、朔太郎と犀星とのつながりがわかってくる。更におじいちゃんたちとも近づいた。――」

――それでひろみと結婚することにもなったのか。元子はふと、ひろみを妻にほしいという申入れのあった十年前の正月のある夜のことを思い出していた。正月酒にへべれけに酔った彼は、酔ってろれつのまわらぬ下手な口上で、文吉と元子の前にひれ伏したのであった。

文吉の話はつづく。まるで病人の山形の口調をそのまま伝えようとでもするように、ゆっくりと、低い声で、

「東京堂へいくと、詩集がたくさんありましてね。そこで、ぼくが、最初に買ったのが、貘さんの詩集なんですよ。山之口貘。