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ひめくり

日めくり

壺井 栄

「群像」1963(昭和38)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,884 字 · 34 页

青空文庫

――このままでもう家へ帰れないような気がするんです。

元子は、そんな山形の心細そうな言葉を思い出すと、気が滅入りそうになる。そんなことにもなりかねないのだ。なんとか、ならないものか。あの子ぼんのうの山形が、子供の顔も見たかろうかと思い、あるとき元子は、

「つれてきましょうか」

と聞いた。山形は力なくかぶりをふり、

「こんな姿を、子供に見せたくない。せめて笑顔で迎えてやるほどにならないと」

そんな笑顔が山形の顔に戻るのはいつのことであろう。

留守宅には八十をすぎた山形の母が、二人の子供をみていた。それも重荷にちがいない。山形の入院以来、子供たちは一度も元子の家へやってこない。元子たちもまた、山形のことが精一ぱいで、孫の顔を見にゆけないでいる。歩いて十分とはいえ、坂のある道は、足の弱い元子に二の足をふませた。

「元気にしてると思うけど、みてきて下さいよ」

ひろみにたのまれて、夕食のあと、元子たち夫婦は出かけることにした。五階建の団地住宅の並んだ、コンクリートの道を、ならんで歩いた。ここを通りぬけ、団地のはずれを、小高い住宅地へ上ってゆくと、山形の家はすぐだった。