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にちげつさま

日月様

坂口 安吾

「オール読物 第四巻第七号」1949(昭和24)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,162 字 · 23 页

青空文庫

僕の病院では重症者の病室がないので、兇暴患者が現われると、ナルコポンで眠らせて松沢へ送るそうです。これはモヒ系統の麻薬です。僕の過飲した睡眠薬は、市販の、どこにもここにもあるというヘンテツもないシロモノです」

「へえ、じゃア、睡眠薬と麻薬は違うの?」

と、豊島さんは目を丸くした。

日本の代表的文化人たる豊島さんでも、こういうトンマなことを仰有るのである。私が麻薬中毒というデマに苦しめられたのは、当然かも知れない。

私が退院する一週間ほど前の話である。

王子君五郎という三十ぐらいのヤミ屋がヒョッコリ見舞に来たのである。私は自分勝手にヤミ屋とアッサリ片附けたが、王子君五郎氏は異論があるかも知れない。

私が彼と知りあったのは、戦争中の碁会所であった。当時の彼はセンバン工であり、同時にあとで分ったが、丁半の賭場へ通っていた。然し本職のバクチ打ちではない。お金の必要があって、時々でかけるらしいが、いつもやられるのがオキマリのようで、工場も休んで、たいがい碁会所へ来ていたが、いつも顔色が冴えなかった。根は非常にお人好しで碁は僕に井目おいても勝てないヘタであったが、熱中して打っていた。