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にほんにおけるしぜんじだいのれきしけんきゅうについて

日本における史前時代の歴史研究について

喜田 貞吉

「史前学雑誌 第一巻第一号」1929(昭和4)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,520 字 · 13 页

青空文庫

歴史家のいわゆる史料として取り扱うものは主として文書記録であり、文字を有せざる民族はたといその文化がどうあろうとも、それは歴史を有せざるものとして顧みられなかったものであった。しかしながら、文字が人間社会の文化のすべてでない以上、文字なき社会にもある種の文化は発達し得る。したがってそこに尋ぬべき歴史が存在し得る道理である。ただ従来の歴史家は主として文献的史料に依頼していたがために、文献なき時代に遡ってこれを尋ぬるの方便を有せず、またその必然の結果として、いつ、どこに、誰がというように、年代と地名と人名とを明かにし得るものでなければ歴史ではないというようにまで、自然世人をして誤想せしむるに至ったのであった。たといその年代や地名については幾分の曖昧を許すとしても、歴史にはまずもって人名が必要とせられていたのであった。したがって土蜘蛛という伝統的民族のことに関しても、蜘蛛は足が長いという聯想から、長髄彦とか、八掬脛というような人名らしきものを作ったり、あるいはその住所として伝えられた土地の名によって、兄磯城、弟磯城、菟狭津彦、八女津媛などと、その地の酋長を呼称したりして、ここに始めて歴史として感を起さしめ得るのであった。