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あべいちぞく
日本の文学 3 森鴎外(二)
森鴎外『日本の文学 3 森鴎外(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:阿部一族、山椒大夫、安井夫人、寒山拾得、寒山拾得縁起。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,545 字 · 140 页
忠利は機嫌よく児小姓に髯を剃らせながら、住持に言った。「どうじゃな。この剃刀では亡者の頭をたくさん剃ったであろうな」と言った。住持はなんと返事をしていいかわからぬので、ひどく困った。このときから忠利は岫雲院の住持と心安くなっていたので、荼所をこの寺にきめたのである。ちょうど荼※(「田+比」、第3水準1-86-44)の最中であった。柩の供をして来ていた家臣たちの群れに、「あれ、お鷹がお鷹が」と言う声がした。境内の杉の木立ちに限られて、鈍い青色をしている空の下、円形の石の井筒の上に笠のように垂れかかっている葉桜の上の方に、二羽の鷹が輪をかいて飛んでいたのである。人々が不思議がって見ているうちに、二羽が尾と嘴と触れるようにあとさきに続いて、さっと落して来て、桜の下の井の中にはいった。寺の門前でしばらく何かを言い争っていた五六人の中から、二人の男が駈け出して、井の端に来て、石の井筒に手をかけて中をのぞいた。そのとき鷹は水底深く沈んでしまって、歯朶の茂みの中に鏡のように光っている水面は、もうもとの通りに平らになっていた。二人の男は鷹匠衆であった。井の底にくぐり入って死んだのは、忠利が愛していた有明、明石という二羽の鷹であった。