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うつりが

日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江

近松 秋江

近松秋江『日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江』。同一底本的分册已合并为一书。收入:うつり香、黒髪、狂乱、霜凍る宵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 152,306 字 · 300 页

青空文庫

そして、何よりもその女の優れたところは、姿の好いことであった。本当の背はそう高くないのに、ちょっと見て高く思われるのは身体の形がいかにもすらりとして意気に出来ているからであった。手足の指の形まで、すんなりと伸びて、白いところにうす蒼い静脈の浮いているのまで、ひとしお女を優しいものにしてみせた。冬など蒼白いほど白い顔の色が一層さびしく沈んで、いつも銀杏がえしに結った房々とした鬢の毛が細おもての両頬をおおうて、長く取った髱が鶴のような頸筋から半襟に被いかぶさっていた。

それは物のいい振りや起居と同じように柔和な表情の顔であったが、白い額に、いかつくないほどに濃い一の字を描いている眉毛は、さながら白沙青松ともいいたいくらい、秀でて見えた。けれど私に、いつまでも忘れられぬのはその眼であった。いくらか神経質な、二重瞼の、あくまでも黒い、賢そうな大きな眼であった。彼女は、決して、人に求めるところがあって、媚を呈したりして泣いたりなどするようなことはなかったけれど、どうかした話のまわり合わせから身の薄命を省みて、ふと涙ぐむ時など、じっと黙っていて、その大きな黒眸がちの眼が、ひとりでに一層大きく張りを持ってきて、赤く充血するとともに、さっと露が潤んでくるのであった。