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にほんアルプスのごせんきょう

日本アルプスの五仙境

木暮 理太郎

「中学生」1922(大正11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,125 字 · 10 页

青空文庫

これと似たような運命に陥りつつある場所が尚お他に一ヶ所あります。夫は佐良峠の南に続く五色ヶ原です。立山の弥陀ヶ原、祖父岳の雲ノ平、それとこの五色ヶ原とは、共に日本アルプスに於ける三大高原であって、しかも同じように熔岩台地であり、孰れも最高二千四百米以上に達しています。中にも五色ヶ原は多量の残雪と、豊富で且つ美しい高山植物と、雄大な環境とに依って、天外の楽園と称せられたのも決して不当ではありませんでした。森林こそ欠けているが、清冷な雪解の水を湛えた大小幾十の池の面には、山と雲との影が綾に織り出されたり消されたりして、其間を縫って銀光沢を帯びた青緑色のヤンマの一種が梭のように飛び交うている。蒼黒い偃松の叢立を島のように取り巻いた鮮緑の草原を飾る白山小桜や小岩鏡の紅と、珍車や白山一華の白と、千島桔梗や虫取菫の紫とは、群落をなした多くの花の中でも特に目立って美しい。同じ仙境というても此処は銀髯を垂れた仙人の住む所ではなくして、霓裳羽衣の女仙が徐ろに蓮歩を運ぶ花園と称した方が適当であると想われました。併しこの楽園も節制のない登山者に蹈み蹂られ、殊にこの頃山上に天幕生活を試る者がある為に、偃松が伐り荒らされ食料品の空箱などが所嫌わず放り出された儘になっているので、仙人ならずとも心ある人は眉を顰めずにいられません。