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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

春三たび

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,829 字 · 25 页

青空文庫

と云い、せめて炊事や針しごとだけでも自分が代ろうといったけれども、伊緒はいきいきと血のけの張った頬で笑いながら、「旦那さまはいま命を賭して戦っていらっしゃいますもの」と答え、なにひとつ姑の手を煩わそうとはしなかった。年があけて十三日の日に、島原へ着陣したという知らせの使者が留守城へ来た、ひと揉みと思っていた賊徒がなかなか頑強で、元旦の城攻めには主将の板倉重昌が討死をしたということも、その使者の知らせでわかった。――内膳正どのが討死をなすった。それは留守城の人々をひどくびっくりさせた、征討軍の大将が戦死をするとはどのようなはげしい戦だったであろう。――これはなみたいていのことではない、おそらく家中からも相当に損害がでるぞ。そういう噂が口から口へ伝わり、にわかに城下のようすが緊張してきた、伊緒もその話を聞いて、はじめて戦場というものがじかに感じられ、「どうぞ御武運めでたく」と心をこめて祈りながら熟睡のできない幾夜かをおくった。もちろん生きてかえれとたのむのではない、生死いずれとも武運にめぐまれてほしいという気持である。伝四郎はつねづね御恩田持ちという身の上を妻に対してひけめに感じている風だった、世間にむかってはむしろ誇りさえしていたのに、妻にだけはなぜかしらん気のどくそうだった。