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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
春三たび
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,829 字 · 25 页
和地家の御恩田も風で吹き倒されたところへ水をかぶり、その年はついに一粒の収穫もなしに終った、また郁之助はだんだんと衰弱が増すばかりで、医薬の費えだけでも分に過ぎた重荷だった、それで僅かでもその費えを助けようと、伊緒は夜仕事に紙漉きのわざをならい、凍てる夜な夜な、水槽の氷を破ってしごとをはげんだ。
また年があけて、重態のまま郁之助は春を迎えた。そして二月二十五日に、久しくみえなかった平田玄蕃がおとずれて来た、これまでのようすとは違って、なにやらはればれとした顔つきをしていた。
「今日は吉報をもってまいりました」かれは挨拶もそこそこに、そう云って伊緒をその座へまねいた、「お上のおぼしめしで、この二十七日に天草陣で討死をした者の三年忌の法会がとりおこなわれる、それに当って和地伝四郎どのもあらためて討死ということにきまり、軍鑑に記されたうえ食禄御加増の御沙汰が出た」
ふいにさっと、この家の内を眼にみえぬ戦慄がはしりすぎたようだった、すぎ女も伊緒も膝の上で手をぶるぶると震わせ、隣りの部屋からわっと郁之助の泣きだす声が聞えた。玄蕃はつづけて云った。
「また二十七日の法会には、御菩提寺において家族におめみえのおゆるしがある、当日は案内があると思うが、御老母にもそのつもりで支度をして置かれるがよい」