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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
藪の蔭
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,841 字 · 25 页
良人や姑には「よい師匠があるので、手直しをして貰いたいから」と云いこしらえた。毎日ひるさがり一刻ずつときめたので、近い家のときはよいが、遠いばあいは往き帰りとも汗の出るほど急がなければならない、膚を切るような風の日や、冰雨が降りつづいて道のぬかるときなど、こんなことをして幾らのものにもなりはしないのに、そう考えて心の挫けそうになることも二度や三度ではなかった。こうした或る日のこと、往来を掘り返しているところがあるのでまわり道をしてゆくと、大藪と呼ばれるあの場所へさしかかった。由紀は思わず立ちどまってあたりを眺めやった。片がわにみっしりと茂った竹藪があり、片がわは疎らな樹立と、草の荒れた空地になっている。藪となぞえに右へ曲ってゆく道の、少しさきには三の丸の高い石垣の端が見え、うしろは一町あまり隔てて武家屋敷にはいる、短い距離ではあるがひとめから隔たった寂しい場所だ……。良人はここに倒れていた、あんなにひどく傷ついて、人にみつけられるまで動くこともできずに倒れていた。由紀はぞっとするような気持で、足もとの黒く湿った地面を見おろした。この藪の蔭でなにかがあったのだ、この藪や樹立や、冷たいこの土はそれを見ていたのだ、いったいどのようなことがあったのだろうか。