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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
箭竹
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,547 字 · 23 页
みよは昂奮を抑えたこわねでたずねた。
「それで、その大変は、お役目をおはたしあそばしてから後か、それともお役目はまだ残っていてか」
「不幸ちゅうのさいわいには、すでに奉納のお役は滞りなく終ったあとでございました」
ああそれでお名にかかわることはない、みよはそう思うと同時に、はじめてぶるぶるとつきあげてくる身顫いをとめられなくなった。良人の百記がお役を申付かって家を出かけたのは七日まえのことだった。その月二日に将軍家光に世子が誕生した、水野けんもつ忠善はその祝儀として久能山東照宮へ石の鳥居を奉納することになり、茅野百記はその事務がしらとして久能山へ出張したのである、なみなみの場合でないから、お役をはたしたかどうかということは、悲嘆のなかにもなによりみよの気懸りなところだったのである。
「安之助への御遺言などはなかったか」
「……はい」
若い家士はつらそうに眼を伏せた、
「目付役へ始末書をお遺しあそばしましたほかは、一通の御遺書もなく、御遺言のこともございませんでした」
みよは寂しそうに頷いた、いかにも寂しそうな眼だった。
すぐにもお咎めの使者があるであろう、そう思ったので、召使たちにその旨を告げ、家内の始末にかかった。