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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
忍緒
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,672 字 · 20 页
「此所はあなた達のおいでになるところではありません、乳母はどうしました」
「乳母はおんなだから御殿へは来られないんです、ねえおたあさま、本当に上田のおじいさまはおいでなさるのですか」
「どうしてそんなことを仰しゃるんです、誰かそのようなことを申しましたか」
「誰も……誰も云いはしませんけれど」
刑部がはなした、松子にはすぐ察しがついた、そして仙千代の眼が疑わしげに自分の顔を見まもっているさまに気づくと、ふと夜半の寝所であったことを思いだした。「おじいさまがいらしった、仙千代を抱きに来たと仰しゃって……」幼いかれはそう云った、そのときかの女は自分がとり捨てた蛾を聯想し、いいえただねぼけたのに違いないとうち消してしまったのだけれど、いま思いかえすと昌幸の来訪とふしぎに符合する、かれの云った「おじいさま」とは安房守ではなかったろうか、孫を思う昌幸の心が、仙千代の夢にかよったのではないだろうか。
「仙千代、あなたはゆうべなにか夢をごらんになりましたか」
「夢ですか、……夢」
仙千代はちょっと首をかしげたが、夢などはみないと答えた。みたとしても、そしてその夢が昌幸であったとしても、二歳のときいちど会ったきりのかれには、それが上田城の祖父だとわかる筈はない。