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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
忍緒
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,672 字 · 20 页
松子は切なさに堪りかね、そっとふたりの肩を抱きしめながら云った、「すぐにまたいらっしゃるのです、こんどはお急ぎの御用がおありだったのですから、このつぎにおいであそばすときは、おふたりにきっとよいお土産を持って来て下さいますよ」
そうあってほしい、どうぞこのつぎに、すべてが無事におさまって、もういちど孫たちをお会わせ申したい。松子はつきあげてくる泪をかくしながら云った。
「さあ、おじぎをなさい、おじいさまが御無事で上田へお帰りあそばすように」
だがこれでつとめが終ったのではない、良人が帰るまでにはもっと苦しい悲しいことがあるであろう、これはその初めの僅かな一齣にすぎないのだ。松子はおのれの心をひきしめるようにそう思い、しずかに、泪を押しぬぐいつつ額をあげた。
付記 数日して石田三成挙兵の報があった時、夫人はすぐさま城下の婦女子を城中へ呼びいれ、「いかなる変があろうとも騒いではならぬ、自分も伊豆守の妻としてこの城をまもりぬくから、皆も心をひとつにして、あくまで武士の妻子たる道をあやまらぬよう」とさとした。これはひとつには家臣たちの騒動と離反に備えるためだったのである、かくして婦女子はそのまま城中にとめ置いて、留守城安全の由を良人のもとへ云い送った。