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『にほんせっきじだいていよう』のこと

『日本石器時代提要』のこと

中谷 宇吉郎

「西日本新聞」 1955(昭和30)年7月19日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,062 字 · 3 页

青空文庫

しかし勉強が過ぎて、胸を悪くした。スイスの療養所で大分静養もしたが、思わしくなく、帰って九州の由布院で闘病生活四年、遂に亡くなった。

それから五年ばかり経って、日華事変の最中、京都の出版社が、京大の梅原末治教授のところへ、考古学の本を一冊書いてもらいたいと頼みに行ったことがある。そしたら梅原教授は「考古学の本では、以前に出た中谷君の『提要』が非常に良い本であったが、今は絶版になっている。あれを補足して出した方がよい。私が校訂してあげる」と言われたそうである。そして同教室の小林行雄、岡崎敬両君の熱心な助力を得て、初版刊行後に得られた新資料及び斯学の進歩を採り入れて『校訂日本石器時代提要』は、菊判五百五十ページに及ぶ大著となって、再び世に出た。

原著の姿をそのままに残して、それに新しい資料を加えて、増補校訂をするということは、非常に労が多くて、しかも世間的には、功の現われない仕事である。普通は門下生が恩師の遺著について行うことが、稀れにあるという程度の話である。

梅原教授のような当代一流の学者が、その門下生でもない、他の大学の年若い一助手の遺著に対して、こういう厚意を示されたことは、空前のことであり、また絶後になるかもしれない。