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にちぼつのげんえい

日没の幻影

小川 未明

「劇と詩」1911(明治44)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,424 字 · 14 页

青空文庫

そのうち、或る家の寡婦と恋に陥った。なんでもこの歌うたいのうたって歩いた歌を覚えている。(少し考えて)なんでも……或る古物商の丁稚は色白だ。古い、紅と青に色彩った瓶を落して破って泣いている。というようなあどけない歌であった。そのうちこの歌うたいの姿が見えなくなった。

第五の見慣れぬ旅人 その歌うたいに相違ないか。

第七の見慣れぬ旅人 保証は出来ぬが、その歌うたいによく似ている。

第六の見慣れぬ旅人 毒でも飲んで死んだのだろうか。

第五の見慣れぬ旅人 頓死したものとも思える。

第四の見慣れぬ旅人 よくあることだ。

第六の見慣れぬ旅人 また、今夜も夢見がよくない。

第五の見慣れぬ旅人 夜が、長くなった。

第七の見慣れぬ旅人 この旅人を葬ってやりたいものだ。

(旅人の一群は倒れたる歌うたいを取り巻いて暫時思いに沈む。この時、日の沈んだと反対の地平線から、赤い月が上った。その色は地震があるか、風が出るか、悪いことのある前兆と見えて、頭痛のするように悩ましげな赤い不安な色であった。)

第五の見慣れぬ旅人 あの、月の色を見い。

第四、第五の見慣れぬ旅人 あの、月の色は……。

(一同月の方を振向いて不安の思いに眉を顰む……沈黙……。