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にっきちょう

日記帳

江戸川 乱歩

「写真報知」報知新聞社、1925(大正14)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,863 字 · 14 页

青空文庫

しかも、それはちょうど、弟が医者からあのいまわしい病を宣告せられた時分なのでした。可哀相な彼は、この二重の痛手に最早再び恋文を書く気になれなかったのでしょう。そして、だれにも打開けなかった、当の恋人にさえ、打開けはしたけれど、その意志の通じなかった切ない思いを抱いて、死んで行ったのです。

私はいい知れぬ暗い気持に襲われて、じっとそこに坐ったまま立上ろうともしませんでした。そして、前にあった雪枝さんからの絵葉書を、弟が手文庫の底深くひめていたそれらの絵葉書を、何の故ともなくボンヤリ見つめていました。

すると、おお、これはまあ何という意外な事実でしょう。ろくでもない好奇心よ、のろわれてあれ。私はいっそ凡てを知らないでいた方が、どれ程よかったことか、この雪枝さんからの絵葉書の表には、綺麗な文字で弟の宛名が書かれたわきに、一つの例外もなく、切手がななめにはってあるではありませんか。態とでなければ出来ない様に、キチンと行儀よく、ななめにはってあるではありませんか。それは決して偶然の粗相なぞではないのです。

私はずっと以前、多分小学時代だったと思います。ある文学雑誌に切手のはり方によって秘密通信をする方法が書いてあったのを、もうその頃から好奇心の強い男だったと見えて、よく覚ていました。