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にっきちょう

日記帳

江戸川 乱歩

「写真報知」報知新聞社、1925(大正14)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,863 字 · 14 页

青空文庫

それらのペイジには到るところに、そこに書かれた文章の奥から、あの弟の鳩のような臆病らしい目が、じっと私の方を見つめているのです。

そうして、三月九日のところまで読んで行った時に、感慨に沈んでいた私が、思わず軽い叫声を発した程も、私の目をひいたものがありました。それは、純潔なその日記の文章の中に、始めてポッツリと、はなやかな女の名前が現われたのです。そして「発信欄」と印刷した場所に「北川雪枝(葉書)」と書かれた、その雪枝さんは、私もよく知っている、私達とは遠縁に当る家の、若い美しい娘だったのです。

それでは弟は雪枝さんを恋していたのかも知れない。私はふとそんな気がしました。そこで私は、一種の淡い戦慄を覚ながら、なおもその先を、ひもといて見ましたけれど、私の意気込んだ予期に反して、日記の本文には、少しも雪枝さんは現われて来ないのでした。ただ、その翌日の受信欄に、「北川雪枝(葉書)」とあるのを始めに数日の間をおいては、受信欄と発信欄の双方に雪枝さんの名前が記されているばかりなのです。そして、それも発信の方は三月九日から五月二十一日まで、受信の方も同じ時分に始まって五月十七日まで、両方とも三月に足らぬ短い期間続いているだけで、それ以後には、弟の病状が進んで筆をとることも出来なくなった十月なかばに至るまで、その彼