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そうしゅん

早春

豊島 与志雄

「苦楽」1947(昭和22)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,457 字 · 20 页

青空文庫

近くで見たのは、いや、ほんとに逢ったのは、初めてだ。梅子さんは日向にひきずりだした布団の上に、脇息にもたれて坐っていた。髪はおさげにして編んでいる。※(「糸+慍のつくり」、第3水準1-90-18)袍にくるまった体はひどく細そりしている。ほんの少女という恰好だ。でも顔は一人前の女で、朝日の光りを受けてるせいか、肌が透き通ってるように見える。眼が黒々として底が分らない。下頬にぽつりと肉のふくらみがあって、小さな受け口だ。その全体がおれにはびっくりするほど美しく思われた。兄さんには殆んど似ていない。しいて探せば、額と耳が似てるぐらいだろう。

おれがびっくりして梅子さんを見ていると、北川さんは言った。

「梅子は、君を医者よりも頼りにしてるよ。薬より魚の方が好きだからね。」

おれは顔が赤くなるのを感じた。

「ほんとに、いつも有難いと思っていますの。」

そう言って、梅子さんは黒々とした眼でじっとおれを見た。おれはへんに口が利けないで、眼を伏せた。

「その代り、お前の、童話を読ませてやったよ。」と北川さんは言った。「そら、お前が考えて、僕が書いたやつさ。」

梅子さんはただ笑っていた。