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わせだかぐらざか

早稲田神楽坂

加能 作次郎

「東京日日新聞」1927(昭和2)年6月11日~29日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,407 字 · 46 页

青空文庫

定夜店が栄えるに従って、植木屋の方が次第にさびれて行ったらしい。

その代り近頃毘沙門の境内に、夜昼なしの常設植木屋が出来て、どこへでも迅速に配達植込までしてくれるという便利調法なことになっているので、毎日中々繁昌しているのも面白い。つい一、二年前からはじめられたことだが、毘沙門様御自身の経営か、或は地代を取って境内を貸しているのか、兎も角震災に潰れた何とか堂の跡の空地を利用してのこの新しい商売は、毘沙門様にとっては、恰も前庭の植込同様、春夏秋冬緑葉青々たる一小樹林を繁らして、一方境内の風致を添えながら兼ねて金儲けになるという一挙両得の名案、毘沙門様もさて/\抜け目なく考えたものかな、その頭脳のよさに流石は御ほとけなればこそと自然とこちらの頭も下る次第で、市内至る処の大小神社仏閣の諸神諸仏も、よろしく範をわが神楽坂毘沙門様に取っては如何にと、ちょっとすすめても見たいところである。

私はそんな今昔談を友達にしながら、電車待つ間のもどかしさに、むしろ徒歩に如かずとそのまま焼餅坂を上り、市ヶ谷小学校の前からぶら/\と電車通りを歩いていたのだが、いつかあの白い海鼠餅を組立てたような、牛込第一の大建築だという北町の電話局の珍奇な建物の前をも過ぎ、気がつくともう肴町の停留場のそばへ来ていた。