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はやみみさんじとりものききがき
早耳三次捕物聞書
林 不忘
01 霙橋辻斬夜話
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,640 字 · 21 页
月が隠れたから、五つ半の闇黒は前方を行く駕籠をともすれば呑みそうになる。三次は足を早めた。ひやりと何か冷たいものが頬に当った。霙になったのである。
三丁目を越えて富坂へかかったところで、駕籠が止まった。客は降りて駕籠賃を払い、左の横町へはいって行った。すると、黒法師が一つ駕籠を離れてするすると後を追った。三次の立っているところは表通りだから何も見えないし何も聞えない。そのうちに黒法師が駕籠へ戻って、どうやらこっちへ引っ返して来るらしいから三次は急いで物蔭に身を隠すと、蜻蛉の辰と若い駕籠かきが無言のままで前を過ぎた。肩にした丸太に駕籠の屋根を支える竹が触ってぎっ、ぎっと軋む音を耳近く聞いた時、三次は何となく背中に水を浴びたように全身惣毛立つのを感じたという。
駕籠も遠ざかって行くが横町が気になるので、三次は小走りにそのほうへ進んだ。暗いから足許が見えない。重い大きな物に蹴躓いてあっと思うと諸に転んだ、町の真中に寝ているやつがある。起上りざま鼻を摺りつけんばかりにして見ると、武家屋敷出入の骨董屋の手代とでも言いたいお店者が朱に染んで倒れていて、初めは二人かと思ったほど、上半身が物の見事に割かれていた。