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はやみみさんじとりものききがき

早耳三次捕物聞書

林 不忘

01 霙橋辻斬夜話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,640 字 · 21 页

青空文庫

三次は剣術なぞは真似すらもできない。しかも自ら招いたこの窮場、ええ、ままよとどっかりそこへ胡坐をかくと、気のせいか侍の顔に微笑が浮んだようだったが、

「町人、斬ろうかの。」

と言った声は、手の白刃のように冷たかった。口が乾いて三次はものが言えなかった。

「商売は何だ。」

刀の尖を振わしながら侍が聞いた。

「大工。」

「なに、でえく? うん。大工か。」

言いつつすうっと刀を振りかぶって、

「斬らしてくれ。」

三次は坐ったまま乗り出した。

「お殺んなせえ。右の肩から左乳下へざんぐり一太刀、ようがす。立派に斬られやしょう。だがねお侍さん、皮一枚だきゃあ残しておいて下せえよ。」

侍はぎょっとしたらしかった。刀持つ手が見るみる下った。弛んだ鍔ががちゃりと音を立てた。

「許す。」

とひとこと、大刀の刃を袖で覆って、侍はもと来た闇黒へ消えて行った。その跫音は水を含んだ草鞋の音だった。その後姿は丸腰だった。鞘を差していなかった。三次は這うように駕籠へ近づいた。若い駕籠屋がちょうど提灯に灯を入れ終って、辰を促して肩を差すところだった。駕籠の底が土を離れると、三次は猫のように音もなく二人の跡を踏んだ。