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はやみみさんじとりものききがき

早耳三次捕物聞書

林 不忘

01 霙橋辻斬夜話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,640 字 · 21 页

青空文庫

お菊は稀に見る孝行娘で近所のお針などをして貧しい父を助け、傍の見る眼も羨ましいほど父娘仲もよかったとのこと。死顔を見てもわかるとおり十人並以上の器量だから若い者の口の端に上らぬではなかったが、十八にはなっていたものの色気付きが遅いのか、その方の噂はついぞなかった。昨十四日は年越しの祝いでお菊は型ばかりの松飾注連繩を自分で外した後、遅れた年賀の義理を済ませに小梅の伯母のところへ行くとか言って、賑やかに笑いながら正午少し過ぎに家を出て行った。これは同じ長屋のお神の一人が見て、現に会話を交したというのだから間違いはあるまい。

お菊の死骸に跨がって切口を睨んでいた三次は、崩れた島田に引っ掛っている櫛を見付けると、手早く抜取って懐中へ納めた後、父娘の仏をひとまず世話人の家へ引取らせた。あとで井戸の周囲を見ると、土に血の跡が滲み込んで、洗場の石の角々にも流れ残った血糊が赤黒く付着いている。言うまでもなく犯人はここでお菊を殺して、音のしないようにと水桶に縛りつけて井戸へ下ろしてから、血刀や返り血を洗って行ったものであろうが、そうとすれば少しは物音もしたはずだと思って、三次が傍の人々に訊いてみると、そのなかでこういう申立てをした者があった。