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あかるいかいひん

明るい海浜

宮本 百合子

「週刊朝日」1927(昭和2)年6月15日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,608 字 · 16 页

青空文庫

「でも、本当に、海老なかったのかしら」

小さい声で、思い出したようにふき子がいったので陽子は体をゆすって笑い出した。

彼等は昨夜、二時過ぎまで起きて騒いでいた。十時過ぎ目をさますと、ふき子は、

「岡本さん、おひる、何にしましょう、海老のフライどう?」

話し声が、彼等のいるところまで響いた。

「フライ、フライ!」

悌が最も素直に一同の希望を代表して叫び、彼等は喜色満面で食卓についた。ところが、変な顔をして、ふき子が、

「これ――海老?」

といい出した。

「違うよ、こんな海老あるもんか」

「海老じゃないぞ」

「何だい」

口々の不平を泰然と岡本はちょいと意地悪そうに眉根をぴりりとさせながら、

「生憎海老が切れましたから蝦姑にいたしました」

と答えた。――忠一や篤介と岡本は仲が悪く、彼等は彼女がその部屋におるのに庭を見ながら、

「おい、うらなりだね」

「西瓜糖はとれないってさ」

などといった。無遠慮な口を、岡本はまるで聞えなかったように、

「忠一さま、お茶さし上げましょうか」

と、丁寧な声と眼差しとで手をさし出す。その蒼白い頬に浮かんでいる軽蔑を、陽子は苦しいほど感じて見ることがあった。