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あかるいかいひん

明るい海浜

宮本 百合子

「週刊朝日」1927(昭和2)年6月15日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,608 字 · 16 页

青空文庫

陽子は、新らしい机の前にかけて見た。正面に夜の硝子窓があった。その面に、電燈と机の上のプリムラの花が小さくはっきり映っている。非常に新鮮な感じであった。夜気はこまやかに森として、遠くごく遠く波の音もする。夜、波の音は何故あのように闇にこもるように響くのだろう。耳を澄ましていると、

「御免下さい」

婆さんが襖をあけた。

「何にもありませんですがお仕度が出来ました、持って上ってようございますか」

陽子は気をとられていたので、いきなりぼんやりした。

「え?」

「御飯に致しましょうか」

「ああ。どうぞ」

婆さんは引かえして何か持って来た。相当空腹であったが、陽子は何だか婆さんが食事を運んで来る、それを見ておられなかった。一人ぼっちで、食事の時もその部屋を出られず、貧弱そうな食物を運んで貰う――異様に生活の縮小した感じで、陽子は落付きを失った。

「ここへ置きますから、どうぞ上って下さい」

「ええ、ありがと」

婆さんが出てから振返って見ると、朱塗りの丸盆の上に椀と飯茶碗と香物がのせられ、箱火鉢の傍の畳に直に置いてあった。陽子は立って行って盆を木箱の上にのせた。上り端の四畳の彼方に三畳の小間がある。