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めいじさんじゅうにねんごろ
明治三十二年頃
寺田 寅彦
「俳句研究 第一巻第七号」1934(昭和9)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,373 字 · 5 页
また、短文の方は例えば「赤」とか「旅」とかいう題を出して、それにちなんだ十行か二十行くらいの文章を書かせるのであった。何という題であったか忘れたが、自分が九歳の頃東海道を人力車で西下したときに、自分の乗っていた車の車夫が檜笠を冠っていて、その影が地上に印しながら走って行くのを椎茸のようだと感じたと見えてその車夫を椎茸と命名したという話を書いた。子規がその後時々自分に「あの椎茸のようなのはもっとないかね」と云ったことを思い出す。あの頃の短文のようなものなども、後に『ホトトギス』の専売になった「写生文」と称するものの胚芽の一つとして見ることも出来はしないかという気がする。少なくも自分だけの場合について考えると、ずっと後に『ホトトギス』に書いた小品文などは、この頃の日記や短文の延長に過ぎないと思われる。
裏絵や図案の募集もあって数回応募した。最初に軒端の廻燈籠と梧桐に天の河を配した裏絵を出したら幸運にそれが当選した。その次に七夕棚かなんかを出したら今度は見事に落選した。その後子規に会ったとき「あれはまずい、前のと別人のようだと不折が云っていた」と云われた。