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めいじぶんめいしじょうにおけるふくざわおう

明治文明史上に於ける福沢翁

大隈 重信

「慶應義塾學報第百拾七號」慶應義塾學報發行所、1907(明治40)年5月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,696 字 · 14 页

青空文庫

我輩と同じく貧乏、先刻奥平侯の藩邸などという鎌田〔栄吉〕校長の御話であったが、話で聴くとよほど立派に聞えるが、なあに勤番長屋である、借家長屋である(拍手)。実に貧乏なる状態で、そんな立派なものでない。諸君が夢にも見ることは出来ぬ。これを見ようとすればどこかこの辺の貧民窟へ行ってみると直ぐ分る。ほとんど貧民窟の状態である。その時分の状態なんというものは――、而してそれでもなお安んじて人に教える。そればかりではない。一方には今に来て殺しはせぬかという困難がある。前に向わんとすれば貧乏に迫られ、後ろからは攘夷家が圧迫する。腹背敵を受けている。そういう時代に死生の巷に立って国の文明を進めることに奮闘されたのである。

ところがその圧迫が来れば来るほど百倍して勇気を揮い起す。無論申すまでもなく、古い写真がこの塾には残っているに相違ない。丁髷を結って大小を帯して真に不様な風をしている。福沢先生の晩年に於ては実に円満なる温和なる、ごくごく常識の高い、決して過激なんどはない、おとなしい人である。こう諸君は思われているか知れぬ。無論平日はおとなしい。しかしながら物に触れて激する時には、ほとんど電光石火の如く、驚くべき勇敢なる働きを為されたのである(拍手)。