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めいじかいか あんごとりもの
明治開化 安吾捕物
15 その十四 ロッテナム美人術
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,950 字 · 85 页
「可哀そうなお兄さま。私が立ち去ると、ひとりぽっちだけど、私が居ても、もはや、どうにもならない」
それが生家を立つときの克子の思いであった。別れる生家は実に暗かった。だが、新家庭には希望をもつことができた。そのために、いっそ兄の将来について暗く悲しく思いふけり、悪い予感をもったのである。
克子は良人からシノブと久世隆光の噂をきいたとき、まさかと思った。久世隆光は時々女主人の食卓にまねかれていた。才気煥発の談論と、一座の空気とピッタリした親しさ。けれどもそれは久世隆光に限ったことではない。除け者の兄のほかの総ての者がただ一様に一座の空気に親しいものに見えただけのことだ。そのころの克子の目はまだ稚なかったのだ。悲しさに曇ってもいた。
「果して兄はこのようになってしまった」
兄の病みつかれた寝顔を見つめて、克子の胸にはただ苦しくて、救いがたい暗い思いの数々が溢れでてやまなかった。
「なぜ兄はこうなったか? どのようにすれば、失われた心の安静をとりもどしてあげられるのだろう?」
その目当ては一ツもない。だが、たった一ツ確かなことは、その適任者は地上にただ自分一人しか居ないこと。