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めいじかいか あんごとりもの
明治開化 安吾捕物
20 その十九 乞食男爵
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,755 字 · 62 页
日本橋にチヂミ屋という呉服問屋があった。先代が死んで、ようやく四十九日がすぎたばかりというとき、小沼男爵が坂巻多門という生糸商人をつれてやってきた。
小沼男爵はチヂミ屋の当主久五郎(二十八)の女房政子(二十一)の父親だ。商人が男爵の娘をヨメにもらッたというのは当時としてもハシリであったが、先代にはそういうオッチョコチョイの気風があって、商家の内儀に男爵令嬢は当世風、商人もゆくゆくはコンパニーなんぞをやって外国風を用いなくちゃアいけねえなんぞとワケも分らずに福沢諭吉先生なんぞを尊敬したアゲクが倅に貧乏男爵の娘をヨメにもらってやった。
小沼男爵というのはさる大名の末の分家、石高一万か二万の小ッポケナ小大名で、先祖代々の貧乏大名。維新で領地を失うとその日から路頭に迷うようなシガない殿様であったが、忠臣や名家老の現れるようなハリアイのある大名じゃないから、主家と一しょに老臣も足軽も路頭に迷って、とる物はとり、ごまかす物はごまかしてしまうと、主人をおッぽりだしてみんなどこかへ行ってしまった。
小沼男爵の旧領の出身で東京へでて産をなしている筆頭がチヂミ屋だから、これに泣きついて借金を重ねたあげく、行末長く借金に事欠かぬ胸算用をたてて、娘をヨメにやった。