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めいじかいか あんごとりもの
明治開化 安吾捕物
13 その十二 愚妖
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,839 字 · 55 页
そこは踏切とちがって人家からも道路からも離れていて、まちがって轢かれるのは腑に落ちないところがあった。
死んでいる男はこの村の人間ではなかった。式根楼という小田原の遊女屋のオヤジである。五十がらみのデップリふとった大男で、昔は素人相撲の大関をとった力自慢。幕末までは十手捕縄をあずかるヤクザ、俗に二足のワラジをはくという田舎にありがちなボスの一人である。
「式根楼のガマ六と云えば小田原の憎まれ者だが、俗に目から鼻へぬけるという悪智恵のはたらく奴。汽車にはねとばされる不覚者でもないし、自殺するようなウブな奴ではない。第一、この村へなんの用があって来たのだろう? ゾロリとした着流しだが、足にワラジをはいている。着流しにワラジというのは散歩にも変だし、旅姿にも変だなア。懐中物が何一ツ見当らないじゃないか」
菅谷巡査は考えこんだ。考えこむのはムリがない。こんなところで死んでるのは、この男の柄に似合わぬことで、解せない節が多い。この男の猪クビは有名だが、タアイもなくネジ切られて、バラバラのうちで首が一番遠く十間の余もとんでいる。ガマ六のヤブニラミといえば泣く子もだまるほどニラミのきいたものだが、その目玉の片方はとびだしてホッペタにぶら下っているし、片目はなくなっている。