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めいじかいか あんごとりもの
明治開化 安吾捕物
18 その十七 狼大明神
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,208 字 · 52 页
そのとき、加治家の正門中央にオーカミイナリの朱の矢が突き刺されておりました。ひきつづいて悪い番頭が主家をだましたり、親類縁者に訴訟を起されて負けたり、そのために当主がヤケを起して諸事に手ちがいを来して、六七年のうちに大身代がみるみる没落という有様です。屋敷まで人手に渡ってよその土地へ持ち去られ、加治、蛭川の両富豪の屋敷跡はどちらもいくつかの土蔵がペンペン草の中に雨風にさらされて名残りを止めているだけですよ。加治景村と蛭川真弓は同じぐらいの年配ですが、加治景村はタタリの怖しさが身にしみてか、オーカミイナリの信者となり、オーカミイナリの山中にイオリを結んで木の芽草の根をかじって生きているそうです」
「土蔵破りの犯人はあがりましたか」
「それがあがっておりません。蛭川の番頭定助の場合同様、神の矢の犯人は捕われたことがないのです」
「そのほかに神の矢が事を起したことは有りませんか」
「私どもの知る限りでは加治蛭川両富豪の二件だけです。この二件はひきつづいて起ったもので、これは村の記録がありますから調べれば正しい日附が分りますが、たしか当時はこの郡が熊谷県と申すようになった直後、明治五年のことのように記憶いたしております。