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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

18 その十七 狼大明神

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,208 字 · 52 页

青空文庫

「この蛭川商店を築いた父に向って何を云うか。若僧のくせに、私に相談をかけずに、とは何事だ」

自尊心を傷けられる父の怒りは心底に深くひろがっていた。彼は対抗的に古ナジミの秩父や両毛から家全体が埋まるほどの大量の織物を買いつけることがあったが、運わるくいつもその直後に大暴落で、久雄にカシャクなく叱責される原因を生むばかりであった。彼は益々エコジになった。

「ナニ? オレがこの店をつぶしてしまうと? これはオレが築いた店だぞ。キサマごときに指一本さわらせぬ。オレの買いつけた品物に火をかけて店ごと焼いてみせるから、見ておれ」

父の方がダダッ子だった。彼は火鉢を抱きあげて山とつまれた荷箱に投げつけたことが三度もあった。

久雄は全く慌てなかった。店員たちが急いで散った火の始末をしようとするのに向って、

「急ぐことはない。一ツずつゆっくり拾え。ついでにその火に一服つけてからやるがよい。目に見えているそんな火で火事にはならぬ。屑のような大荷物は焦げたところで大事ない」

すっかり血相の変った父はそのまま家をとびだして茶屋酒にひたり、何日も帰らぬ日がつづく。そして、何事もない平穏な日も父の茶屋酒は激しくなる一方であった。