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めいじかいか あんごとりもの
明治開化 安吾捕物
05 その四 ああ無情
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,336 字 · 47 页
女中は顔色を失ったが、
「そうそう。それじゃア、長唄のお師匠さんの方へお廻りだわ。そう仰有ってたの。ちょッと見てきます」
と云って、すぐとびだした。そのまま二人は夜になっても帰ってこない。
夜も更けて、十時ごろ、中橋は自家用の馬車で乗りつけたが、ヒサが見えないので烈火の如くに怒った。そうなるだろうと怖れなやみぬいていた母親は二三十分間というもの半日用意の文句でなだめつ、すかしつ、平あやまり、手を合さんばかりにたのんだが、中橋はたまりかねて、
「エイ。うるさい。あれほど堅い指図をうけていながら、主を主とも思わぬ奴。オレは今夜は夢之助のところへ泊るから、急いで車をよんでこい」
馬車はかえしてしまったから、よその車をよんでこなければならない。
「もう夜もおそうございます。よその車では危うございますから」
と、ヒサの母は必死にかい口説いたが、
「だまれ。こんな不浄の家にいられるか」
と、やにわに足蹴にする。襟首をつかまえて、ソレ、車をよんでこい、と戸外へ突きだされたヒサの母は、詮方なく吾妻橋の方まで歩いて、車を一台ひろってきた。しかし、戻ってみると、中橋はすでに立ち去ったのか、姿がなかった。