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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

06 その五 万引家族

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,970 字 · 48 页

青空文庫

未亡人もキク子も、兄は死んだものと、すでに諦めきっているようであった。まったく、この家族たちの感情の上では、兄はもう居ないもの、帰らぬもの、死んだものときまっている様子である。咲子は生きている兄がいると知ったときに、信じられないような気持であった。その謎も、どうやら、解けるではないか。咲子は思い知った。博司は生きて日本には帰ることができないワケがあるのだ。彼はすでに「癩」に犯されているからである、と。

もう一人、毎月、月末に一度だけ、きまって訪ねてくる怪しい人物がいた。野草通作という中年の男である。高価な着物を着流しに、いかにも結構な楽隠居という様子であるが、いかにも人品が下司である。女中のタケヤにきいてみた。

彼女の話によるよ、野草通作はお茶にも菓子にも手をつけたことがない。包んで貰った菓子は、帰るとき、ハイヨ、と云って見送りの女中に投げてやり、毒があっても知らねえよ、と云いすてて帰るのだという。タケヤはいかにも顔をしかめて、あの男はイヤらしい好かない人物だという表現をするのであるが、その素性については知らない。ここの女中はみんな小女ばかりで、古い女中は一人もいなかった。