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めいじかいか あんごとりもの
明治開化 安吾捕物
08 その七 石の下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,242 字 · 65 页
彼の先妻には二子があったが、いずれも女で、先妻がそうであったように二人の娘も肺病であった。姉の生乃は病気を承知でムリに嫁してすぐ死んだ。妹の玉乃は今年十九。寝たきりではないが、寝つくことが多く、痩せ細り、蒼ざめもつつブラブラしている。
千代には東太という一男が生れ、津右衛門の喜びは殊のほかであったが、東太はまだ三ツ、手足まといにはなっても、男手の中に数えることはできやしない。
こういう頼りない家族であるから、千代とても避けうるならば難を避けたいのは山々であるが、今や、こうして父の説得をきくうちに、ふと思いついたことがあった。ハハア、さては、と気がついた。
千頭家には妙な家憲があるのだ。この家憲は世間の人々にも知られているが、世間の噂は元々当にならないものだ。けれども、千代は千頭家に嫁して、津右衛門から、世間の噂が正しいことをたしかめていた。
千頭家では息子の成人に当って、先祖伝来門外不出の言い伝えを語りつぐことになっている。その語り伝えられるものが何事であるかは、父と息子以外の誰にも分らない。息子の母も弟も知ることができないのである。そしてその語り伝えられるものは決して文字に記してはいけないとされていた。